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長崎地方裁判所 昭和30年(レ)101号 判決 1956年4月06日

控訴人 前田イク 外一名

被控訴人 深田千代子 外三名

主文

原判決を取消す。

本件を佐世保簡易裁判所に差戻す。

事実

控訴人等は原判決を取消す。一、被控訴人深田千代子、同武富慶吉は連帯して(イ)控訴人前田に対し金三千六百円、(ロ)控訴人田中に対し金三千六百円、二、被控訴人武富キチ、同深田千代子は連滞して、(イ)控訴人前田に対し、金千四百五十円、(ロ)控訴人田中に対し金二千九百円、三、被控訴人武富照子、同深田千代子は連帯して(イ)控訴人前田に対し金千六百円、(ロ)控訴人田中に対し金三千二百円を各々支払わなければならない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。との判決を求め被控訴人等は本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人等の負担とする。との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴人等において、控訴人及び被控訴人等を含む二十数名は昭和二十七年九月二十五日、講員相互の金融と親睦を図る目的で訴外野口武芳を講元として、総口数二十八口、一口の掛金千円、会日を毎月二十五日と定め、毎月その持口に応じた金員を掛けこみ順次落札者に落札金を交付する無尽講を組織したが、本件講は訴外野口が不正事件を起したゝめ、同人は昭和二十八年四月本件講より脱退し、現在総口数二十六口であるが、其の後同年五月二十五日に総会を開き、全員一致の合意をもつて、同日より各講員はその会日における落札者に各自の掛金を自己の責任において持参して支払い、落札者はその会日における掛金を講員に対し直接請求しうるものとなし、本件無尽講を自治的に管理して行く決議がなされた。

控訴人等は本件講の講員であり、各々二口を持つ者であるが、控訴人前田は二口のうち一口を昭和二十九年九月二十五日(第二十五回の会日)に他の一口を同年十二月二十五日(第二十八回の会日)に、控訴人田中は二口のうち一口を同年十月二十五日(第二十六回の会日)に他の一口を同年十一月二十五日(第二十七回の会日)に各々落札した。

(一)  被控訴人武富慶吉は昭和二十九年七月二十五日(第二十三回)に落札金千八百円にて落札し金三万六千二百八十円(但し訴外永井リヲ千七百二十円、同白石ハルエ千八百円の未納を除いた分)を受領し被控訴人深田は掛戻につき連帯保証をなしたものである。然るに被控訴人慶吉、同深田は、第二十五回分以降の掛戻をしない。よつて控訴人前田は第二十五回及び第二十八回の二回分、計三千六百円、同田中は、第二十六回及び第二十七回の二回分、計三千六百円の支払を受けていないので、これが支払を求める。

(二)  被控訴人キチは昭和二十九年四月二十五日(第二十回)に落札金千四百五十円にて落札し金三万四千四百八十円(訴外永井リヲ千七百円、同白石ハルエ千八百円、の各未納を除いた分)を受領し、被控訴人深田は掛戻につき連帯保証をなしたものである。然るに被控訴人キチ、同深田は第二十六回以降の掛戻をしない。よつて控訴人前田は、第二十八回分、千四百五十円、同田中は、第二十六回、及び第二十七回の二回分、計二千九百円の支払を受けていないので、これが支払を求める。

(三)  被控訴人照子は昭和二十九年五月二十五日(第二十一回)に落札金千六百円にて落札し金三万四千九百三十円(訴外永井リヲ、千七百二十円、同白石ハルエ千八百円の各未納を除いた分)を受領し、被控訴人深田は掛戻につき連帯保証をなしたが、被控訴人照子、同深田は第二十六回以降の掛戻をなさない。よつて控訴人田中は第二十八回分、千六百円、同田中は第二十六回及び第二十七回分計三千二百円の支払を受けていないのでこれが支払を求める。

と述べ、被控訴人等の同時履行の抗弁は否認すると述べた。

被控訴人等は、本件講の目的、及び訴外野口が昭和二十八年四月まで講元であつたこと並びに、被控訴人等が各々第二十、二十一、二十三の各会日に落札し、その掛戻債務につき、被控訴人深田が連帯保証をしたこと、控訴人等が各自二口宛を持つ講員であることは何れも認めるが、本件講の総口数が現在二十六口であること、控訴人等が各落札したことは不知、その余の事実は否認する。即ち本件講は昭和二十八年五月より講終了に至るまで訴外福本マサヲを講元として集金その他の事務を行つていたものである。と述べ抗弁として、被控訴人等は、訴外永井リヲ、同白石ハルエの未納分を何れも受領していないから、右二人の未納掛金を受領するまでは、本件掛戻請求に応ずることは出来ないと述べた。

<立証省略>

理由

原審は、無尽講の単純な講員であつて、業務執行者でない控訴人等が、被控訴人等に対し、講金の支払を訴求したのに対し、無尽講は共同の事業を営む組合であつて、団体性を有し、従つてその権利の行使は組合の代表者又は組合員全員においてこれを為すことを要し、組合員各自が擅にこれを行使することは許されないから、控訴人等が無尽講の単純な講員に過ぎないにもかゝわらず、その名において講金の支払請求をなしている本訴は不適法であると判断して控訴人等の請求を却下したので、当裁判所は、先ず職権を以て、控訴人等には、果して原審の判断するように当事者適格がないかどうかについて検討する。

成程原審所論の通り無尽講は民法上の組合であつて、その権利の行使が、原則として講会の代表者又は講員全員においてこれをなすことを要し、講員各自が擅にこれを行使することを許されないのは勿論であるけれども、事宜により、講員全員一致の合意を以て、講金取立の権利を講員各自に付与し、この者をして、個人の名を以て直接爾余の講員に対し、講金の取立をさせることは、適法であつて、何等の支障がないものと解するのを相当とするところ、本件において、控訴人等の主張は、講会の業務執行者であつた訴外野口に不正事件が起つたゝめ、昭和二十八年五月二十五日講員全員参集した上、満場一致を以て、訴外野口を排除して爾後は講元を定めず、講員各自が、落札者に自己の掛金を持参して支払い、落札者は直接講員から掛金を取り立てる権能を有することに講規約を変更し、この規約に基き本訴請求に及んだというのであつて、斯様な場合には、特段の事情の存在しない限り、前に述べたところに従つて、落札者たる講員は、裁判外たると裁判上たるとを問わず、個人の名を以て、直接爾余の講員に対し、講金の支払を請求する権能を有するものと断ずべきである。

そうだとすると、控訴人等が、本訴につき原告となる当事者適格を有することは、言を俟たないから、これと異る見解の下に控訴人等に当事者適格なしとして、本訴を却下した原判決は所詮取消を免れない。

よつて民事訴訟法第三百八十八条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 林善助 田中正一 坂本喜美子)

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